Story

MH-Delta

MH-Deviceは2022年に誕生しました。それは開発者である一人のオッサン――つまり私が「Fortnite」というシューター系ゲームと出会ったところから始まります。

このページではMH-Device誕生の秘話とMH-Delta開発の軌跡を紹介させていただきます。不器用なプレイヤーが自分の“できない”を乗り越えるために作ったデバイス。その物語が誰かの“できる”につながることを願って――。

フォートナイトとの出会い

2020年の終わりごろ、私は「フォートナイト」というゲームに出会いました。ご存じの方も多いと思いますが、TPSのバトルロイヤルゲームです。とにかく忙しいゲームです。建築、移動、戦闘…すべてが一瞬の判断にかかっている。

このFortnite、色んなハードウェアでプレイすることが可能なんですが、当初私はNintendo Switchでプレイしていました。手軽だし、寝転びながらできるし最高。
…と思ってたのも束の間。
コントローラーのアナログスティックでライフルの照準を合わせるのが、まぁ難しい。弾が全然当たらない・・・(笑)

Fortnite
戦場に放り出されるオレ in Fortnite

「困った・・・このままでは全然勝てへんやん・・・。

 

マウスは味方、キーボードは敵

Switchでの“弾当たらん問題”に悩んだ末、思い切ってPC版に乗り換えてみました。
「マウスでエイム(照準操作)できるなら、こっちのほうが当たるんちゃう?」ってことで、キーボード&マウスで再挑戦。

ゲーミングキーボード

最初の感想は

「キーボードでゲームすんの難くね?w」

でした。

長く慣れ親しんだマウス操作で、エイムに関してはかなり改善されました。やはり可動範囲が大きく繊細な操作ができるマウスはエイムに適しています。弾はそこそこ当たるようになりましたが、すぐに別の壁にぶち当たりました。フォートナイトを含め、PCゲームでは、キャラクターの移動にキーボードのW・A・S・Dキーを使うのが定番なんですが、この操作がメチャメチャ難しい・・・。

いわゆるファミコン世代の私にとって、キャラ操作は“親指一本”が基本。PCキーボードでは3本の指でキーを押し分けないといけない・・・。まともに操作できませんでした。しかもフォートナイトはスピード命。素早い操作が求められるゲームでは、キー位置を確認している間に的に撃たれて終わる。結果、Switchでプレイしていた時よりも状況が悪化してしまいました・・・。希望を持って飛び込んだPC版。でもそこに待っていたのは、またしても“操作の壁”でした。

キーボードを捨てると決意したあの日

最初期のモックアップ

PC版フォートナイトでの“WASD地獄”を経験してから、ふと思いました。そもそもキーボードは基本的に文字を書くためのツールですから、ゲームに最適化されていません。そこで、「ゲームに特化した専用のデバイスがあればエエんちゃう?」と考え始め、自分が持っている電気・電子の知識、プログラミングの知識、機械設計の知識を活かして、3Dゲームに特化したデバイスの開発に着手しました。2021年の夏頃でした。

もちろん類似機が存在することも知っていましたが、内蔵メモリでなかったり、大きかったり、光ったり(笑)するので、なんかこう…“自分が欲しいやつ”とはちょっと違う。だから目指したものは、もっとシンプルな構成で自分の手に馴染むやつ。
3D CADで10パターン以上の形状を検討し、自分の手にフィットする形状を模索するところから始めました。

この時点ではまだ名前もなかったけど、
“あの頃の自分”を救うためのデバイス開発が、静かに動き出しました。

親指1本で、世界を動かせ。

目標はシンプルかつ野心的でした。「親指1本でキャラ操作、マウスでエイム。もっと自由に、もっと快適に。」

手始めに電子工作用のアナログスティックを入手し、WASD操作を割り当てることができるか検証することにしました。

むき出しの電気回路にコードをつないで、そっとスティックを倒してみる。
……すると、キャラがスッと動いた。

「おっ、動いた…!」

思わず声が出るくらい気持ちよく反応してくれました。従来のコントローラーに近いフィーリングで、ちゃんとキャラが動く。この瞬間、「これ、いけるかも…!」っていう手応えが一気に湧いてきて、開発のモチベーションがググッと加速しました。

配線むき出しじゃ戦場に立てん

アナログスティックでの操作感に手応えを感じたものの、むき出しの配線では実戦投入できないので、3Dプリンターを購入してボディの造形に踏み出しました。電気回路のパッケージングと操作しやすい形状の両立。ただ“動く”だけじゃなく、“使いたくなる”ものへ。何度も試作を繰り返しながら、理想のカタチを探しました。

下の動画で紹介している紫色ボディは、既存のキーボードと組み合わせてアナログスティックのみを使用する最初のデバイス。しかし、これでは操作性が悪いので、筐体にボタンが付いた青いバージョンを作りました。「ただのアナログスティック」から、「戦えるデバイス」へ。少しずつ理想のカタチに近づいていきました。

MH-Alphaの誕生

青い試作機はアナログスティック+8キーという構成。しかしゲームをプレイするには少しキー数が足りません。

「1台で完結するゲーミングデバイスを作りたい」

その想いから、さらに機能を追加した新モデルの開発に着手。キー数は8から15へ。マウスのホイールのような入力機能も搭載。各ボタンに好きなキーを割り当てることができる設定ツールも開発し、汎用化することに成功。本機を「MH-Alpha」と名付けました。

MHシリーズの最初の完成形。「自分のため」から、「誰かのため」へと視点が広がった瞬間でした。実際に本機を使ってみると操作感はかなり良好。誰にでも使ってもらえるようにひっそりネット販売を試みたところ、予想以上に好意的な反応が続々。その驚きと嬉しさが、次なる挑戦――MH-Gammaの開発へとつながっていきます。

MH-Alpha

MH-Gammaの誕生

MH-Alphaは、ゲームプレイヤーだけでなく、イラストレーターさんの左手用デバイスとしても使われるようになりました。

「これ、ゲーム以外でも使えるんや…!」

そんな気づきが、新たな開発の火種になりました。もっと幅広く、もっと快適に使えるように、後継機「MH-Gamma」の開発をスタート。この機種では親指で操作できる機能を強化、割り当て可能なキー数は一気に増え41個になりました。

ほとんどのゲームでキーが不足することはないと思いますし、アナログスティックによるマウス操作機能や、用途別に使っていただけるように2チャンネル切り替え機能も追加し、ゲームにも創作にもフィットするマルチなデバイスに仕上げました。

もともとは自分が『フォートナイト』を快適にプレイするために作ったものですが、MH-Gammaは「拡張性と汎用性」を実現したデバイスへと進化しました。

MH-Gamma

Kickstarterで、夢に火をつけた。

MH-Gammaの完成度に手応えを感じた頃、次に見えてきたのは「量産」という壁。

「このデバイス、もっと多くの人に届けたい」

その想いを胸に、Kickstarterでクラウドファンディングを実施しました。無事目標額を達成し、応援してくださった皆さまのおかげで、MH-Gammaは量産化への一歩を踏み出すことができました。量産にあたっては、キー部分を市販品と交換できるように四角い形状へと変更。新たな名前を――「MH-Delta」と命名しました。

MH-Delta

さらに、以前から要望の多かった“左利き用(右手操作)”もラインナップに追加。
正直、樹脂型の費用はなかなかのチャレンジでした・・・。
でも、「左利き用って、ほんまに少ないよな…」という実感があって、
「絶対に作りたい」と強く思っていました。

MH-Deltaは、ただの量産モデルじゃない。ユーザーの声と自分のこだわりが融合した“共創の証”みたいな存在です。

この一台が、オレを戦わせてくれた

私自身、今でもDeltaを使ってゲームをプレイしています。技術の改善はあるものの、正直まだまだ下手くそです。Fortnite特有の建築も編集もプロゲーマーみたいにスムーズにはいかないし、撃ち合いで負けることも多い。でも、それでも以前よりずっと“まし”にプレイできるようになったと思います。

何より嬉しいのは、自分が作った相棒と一緒に戦場を駆けているということ。
MH-Deltaは、ただの入力装置じゃない。「こう動きたい」、「こう操作したい」っていう自分の願いを形にした存在。その相棒が実際にゲームの中で自分の手足のように動いてくれる。それだけでプレイの楽しさが何倍にも膨らみます。

以前は、操作に戸惑ってる間に撃たれて終わることも多かった。でも今はキャラが思った通りに動いてくれる。親指でスティックを倒し、指先でボタンを押す。その一つひとつの動作が、MH-Deltaを通して“自分仕様”になっている。

勝てるかどうかは別として、「自分の手で、自分の作った道具で、ちゃんと戦えてる」
その実感が、何よりも嬉しい。

MH-Deltaは、技術の塊でありながら、自分の“悔しさ”や“願い”を背負ってくれている、そんな存在。

Nintendo Switch → PC(キーボード) → PC(MH-Gamma(Prototype))

最後に・・・

私は昔から生活不便を改善するモノづくりが大好きでした。MH-Deltaもその延長線上にある一品です。きっかけは自分のゲームの下手さ。そして、一緒にフォートナイトを始めた我が子にボコボコにされた悔しさ(笑)
「負けてられへん…!」という親父のプライドが、開発の火をつけました。あれこれ考えて、試して、失敗して、また作って。色んな思考を巡らせ、自分の持てる知識、経験を全て注ぎ込んで完成したのがMH-Deltaです。

「気軽にPCゲームをプレイしたい。」

そんな方にこそ、ぜひ使ってほしいと思っています。MH-Deltaには、私の思いがぎゅっと詰まっています。皆様のゲームプレイ、イラスト制作や日々の作業にMH-Deviceの製品がそっと寄り添えたら嬉しいです。